はじめに
△ 図1 ヨーロッパにおけるデンマークの位置
北欧・デンマークは日本と比べるとサハリンの北に位置し、地理的にはヨーロッパ大陸に接しているが、大小406の島々から構成されている島国である。
世界最古の王室を持つ立憲君主制で、現在はマグレーテ2世女王が即位している。EUに加盟をしているものの、通貨はユーロではなく独自のデンマーククローネ(DKK、kr)を使用し、言語はデンマーク語で、デンマーク領土の他に自治領としてフェロー諸島とグリーンランドを有している。
国の主な産業としては農業や造船業などがあり、EU諸国の中で唯一対日貿易が黒字なのもデンマークである。日本には乳製品のほか、豚肉などが多く輸出されている。
地形は日本と比較するとほぼ九州に等しい大きさであり、人口は東京の半分以下の約550万人。首都コペンハーゲンの人口は約170万人であるが、それに次ぐ第二の都市オーフスでは人口約20万人と、首都コペンハーゲンに一極集中した国と言える。
デンマーク人の気質
デンマークの国民は政治に関心が高いと言われるが、それは自分自身を守る気持ちが強いということが挙げられる。
デンマーク人は自分の主張を押し通す意思が強く、また自分に非があることを認めるのを嫌う。
日本人のように他者に対して謝罪をするといった習慣はなく、この点もデンマークに触れた多くの日本人は文化の違いとして戸惑うようである。
服装ひとつをとっても自由な気質は表れており、銀行員ですら夏にオフィスでTシャツとジーパンという格好も珍しくない。日本のようにきちんとスーツ等を着用するといった場は、公のパーティーなどでしか見かけることがない。
この自由な気質を持つデンマーク人を特徴づける大きな変革として、1968年に「若者の蜂起」と呼ばれる革命運動があった。
この運動により、デンマーク社会にあった人々の上下関係は撤廃され、国民は身分や立場に関係なく互いを平等に認めあうことになった。
現在デンマークでは大学や会社内でも上司に対して「Mr.」「Mrs.」などの敬称などを使うことはなく、ファーストネームで呼び合う。デンマークに暮らし始めた日本人の多くはこの習慣に戸惑う人も多いようである。
デンマークの生活
デンマークでは労働時間が週37時間と法律で定められている。
以前はこれよりも長く定められていたが、より多くの自由時間を持つことが社会を形成する上でも重要であるということで改正され、ほとんどの国民がこの規則に従っている。
デンマークの一般的な勤労は朝8時から15時や16時までであり、仕事を終えると人々はすぐに帰宅し、趣味や家族と過ごすことに時間を費やす。
特に夕食は家族が全員揃って食卓を囲むということが当然の習慣として日常に位置づけられている。
日本のように残業や休日出勤をする習慣はなく、日曜日や祝日は町中の商店もほとんどが営業をしていない。
また年間14日の祝日があり、この他に成人には年間で5〜6週間の休みをとる義務がある。
子ども達は夏に7〜8週間の長期休暇を持ち、秋や冬、春にもそれぞれ一週間程度の休暇がある。
デンマークでは多くの人々がこの休暇を旅行、スポーツ、レクリエーション活動などをして過ごす。
都心に暮らすデンマーク人のほとんどは地方にサマーハウスと呼ばれる別荘を所有しており、多くの国民は週末や休暇をこのサマーハウスで過ごしたり、車でヨーロッパ諸国へ旅行する人も少なくない。
デンマーク人の生活習慣と平均寿命
△ 表2 デンマークの生活習慣行為の割合
△ グラフ3 ヨーロッパの主な国の平均寿命(2004)
△ 表4 デンマークの主な概要と日本との比較(2004)
このように非常にゆとりのある生活をしているように見えるデンマークではあるが、実際にはストレスも多くある。
緯度の高い位置にあるデンマークでは、夏は朝の4時頃から日が昇り夜の23時頃まで日が沈まないという白夜となる一方で、冬は日照時間が10時〜15時の4、5時間という日が長く続き、しかも晴れる日よりも曇りや雪の日が多く続く。
そのため夏の間は陽気で大らかなデンマークに暮らす人々も、冬の間は鬱気味になりふさぎ込むことも多い。
多くの国民が15時には仕事を終えて帰宅をする背景には、夏は残りの半日を明るい屋外でスポーツやバーベキューなどの余暇に、冬は気候的にも精神的にも暗くなるため、労働意欲をそがれるといったことも理由のひとつにあげられる。
このような気候風土的なものと自由な国民気質とが重なり、デンマークでは喫煙・飲酒者が非常に多く、国民だけでなくマグレーテ2世女王もヘビースモーカーとしてよく知られている。
しかし昨今の世界的な傾向からもデンマークでの喫煙者の数は年々減少しており、統計で見てもデンマーク人の喫煙者の割合は1980年の50%から2004年には25%まで減っている。
一方で飲酒者の割合は2000年の調査では男性が15%、女性が9%と1994年の調査から増加している。
また高水準福祉社会、国民の満足度世界一などと言われるデンマークではあるが、実は国民の平均寿命は西欧の中では最も低い数値にあり、2004年の平均寿命は男性で75歳、女性で80歳、平均では78歳となっている。
これらは気候風土から来る精神的ストレスや過度の喫煙やアルコールの多量摂取などのライフスタイルと、高水準の医療・福祉サービスに頼りすぎているといった2つの要因があるのではないかと考えられている。
デンマークの医療費
△ 表4 デンマークの主な概要と日本との比較(2004)- (追記:2007年1月より27のアムトは合併されて5つのレギオン[Region]となった。医療などのそれまでのアムトの業務はそのままレギオンが引き継いで行っている。)
△ グラフ6 デンマークの社会サービス割合の内訳(2004)
△ 表7 国民一人当たりの医療費比較(PPP US$, 2004)
デンマークでは医療・福祉にかかる国民の負担は無料である。また教育においても小学校から大学までの学費は一般的にはすべて無料となっている。
この背景には19世紀のデンマーク人哲学者であるN.F.S.グルントヴィが提唱した「人間が基本的に受ける権利のある医療と教育からはお金を取るべきではない」という思想から来ているものが大きいとされている。
当然それら医療費や教育費は高負担といわれる税金から賄われているのであるが、驚くべきことに医療や教育のサービスは外国人に対しても適応され、例えば日本人旅行者が現地で病気や怪我で入院となった場合でも医療費は無料となる。
さらに留学生などの大学など高等教育機関の学費も以前は無料であった。しかしこれは最近の中東系やアジア系の移民増加の問題などから数年前から一部が有料化され始めている。
医療においては国、アムト(日本で言う都道府県)、コムーネ(日本で言う市町村)の役割が明確に分けられている。
国は政策の方向性や法律の概要を築いたり予算の管理、病院等の監修を行うだけである。
行政においては医療は内務衛生省(Indenrigs- og Sundhedsministeriet : Ministry of Interior and Health)、福祉は社会省(Socialministeriet : ministry of social affairs)と役割が分けられている。
現場での実行はアムトの管轄であり、障害医療や特殊医療サービスを行い、病院の運営や家庭医の監理をしている。
福祉サービスはコムーネによって行われ、訪問介護や学校保健、歯科治療なども行っている。
医療費においては保険ではなく保障制度が採用されており、税収による財政でまかなわれている。
自治体の財政は住民税、固定資産税、地方交付税等で賄われ、各自治体の独断決済がとられている。給与所得者には源泉徴収制度が定められ、医療事業は出来高ではなく予算方式で行われている。
しかしそれでも自治体にかかる医療費の負担は大きく、現在は14あるアムトをさらに5つにまで統合する政策が進められているところである。
(追記:2007年1月に実施)
ちなみに2004年度の医療費は900億DKKとなっており、これを国民ひとりあたりに換算し、さらに1DKK=18円のレートで換算すると、国民一人当り約30.0万円が医療費として使われている計算になる。
これらデンマークの医療・福祉における基礎的な事象はすでに19世紀後半から始まっていたのであるが、近年の大きな変革は1970年の、当時約1,400あったコムーネを277まで、25あったアムトを14まで合併し、福祉と教育の管轄をコムーネに、医療の管轄はアムトに分離させた改革にある。
そして同時に国民番号制を導入し、租税制度を整え、73年には医療保険制度を廃止して医療保障制度へ、さらに74年には福祉サービスにおける窓口を一本化して個々の分野の連携を強化し、76年には生活支援法(Bistanslov)を施行して現在の高水準福祉社会と呼ばれるものの基礎を築いたのである。
医療保証と医療体制
△ 図8 デンマークの医療カード(2004現在)
デンマークの国民は生まれるとすぐに(生後1週間ぐらいで)コムーネより乳幼児の訪問看護を定期的に受けるようになる。 その後は学校での校医や看護士による定期健診などにより子どもたちの身体や歯の健康は管理される。
ちなみにデンマークでは6〜7歳から9年間の義務教育があるが、その教育制度は日本のものとは若干異なる。
またデンマークに暮らす全ての国民は医療保証、国民年金、早期年金という社会保証サービスを受けられる。
さらに失業した場合には失業給付金を、病気になって働けない間は病床手当てを、60歳以上67歳未満での退職の場合には早期退職年金を受け取ることができる。
住民登録が行われると、数日後には医療カード(Sygesikringsbevis kort)が送られてくる。
このカードは磁気とバーコードが記載されたIDカードとなっており、表面には住民の名前と住所、10桁の自身の国民番号の他に、担当の家庭医の名前と連絡先が明記されている。
人々は医師や歯科医などの診察を受ける際にはこのカードを提示する他、図書館での本の貸し出しや各種照会など様々な場面でカードの提示を求められる。
同時に住民がヨーロッパ圏内へ旅行する場合にもこのカードの持参が義務付けられている。そしてもし旅行先で病気になった場合、その国でこのカードを提示することで、無償で診察を受けることが出来るのである。
この医療保証制度は大きく2つのグループにわかれている。一般的なものは「グループ1」と呼ばれるもので、住民はそれぞれに家庭医と呼ばれる担当医を自分が暮らす地域から選択をする。
家庭医には担当することの出来る患者の数は1,600人程度である。医師が自由にその数を増やすことは出来ず、もしも希望する医師がすでに制限を越えている場合には、住民は別の医者を選ばなければならない。
ただし家族単位で診察を受ける場合も多く、親子が別々の家庭医になるということはほとんどない。
体調不良などで医療サービスを利用したい場合、まずは家庭医での診察が必要となる。診察に関しては電話での予約制となっており、これにより診療所で長時間待たされるといったことはない。
一般に家庭医の診療時間はそれぞれの医師によって異なるが、朝8時から午後4時までが一般的である。もしも担当医の往診時間以外に病気になった場合には、救急医療サービスを利用することになる。
家庭医の主な業務は、診断、初期治療、処方箋、メンタルケア、カウンセリング、予防などである。家庭医は診察の結果、必要がある場合には専門医へと患者を移すことが出来る。家庭医によって専門医へ紹介が行われた場合には、専門医での診察等の費用は無料になる。
また自分の家庭医に不満を感じて変更をしたい場合には、1年に1度だけ変更が認められている。
国民の92%はこの「グループ1」を選択しており、約460万人が一般病院を、約270万人が歯医者を利用している。特に20代女性の利用が最も多い。
もうひとつのグループに「グループ2」がある。住民がこの「グループ2」を選択すると、専属の家庭医ではなく、その時々に推薦状なしで自由に医師や専門医を選択し、診察を受けることが出来る。いわゆる自由診療である。
ただしこの自由診療には国からの保障はなく、すべて個人負担となる。そのため多くの国民は「グループ1」を選択しているのである。
歯科医
デンマークでは半年に一度程度の歯の検診が習慣づけられているため、かかりつけの歯科医を持つ住民が多く、歯科医は自身の患者に対して半年間ごとの検診のスケジュールを立てる。
そのため1人の歯科医が抱える患者の数は、約3,000人となっている。
歯科医院でも診療時には医療カードの提示が求められる。しかしその治療費の大部分は患者が個人で負担をしなければならない。
この治療費はかなり高額になり、このための医療保険などもある。
ちなみに学校に通っている子どもたちは学校の歯科医が検査をして処方をするので無償で歯の治療を受けることが出来る。ただし16歳になると自分で歯科医を選択しなければならない。
この歯科診療費の負担はかなり重く、そのためデンマークに暮らす日本人などは日本への帰省に合わせて日本で歯の治療をしたり、コペンハーゲン市民の中には隣国のスウェーデンまで歯の治療に行く人もいる。
参考までにコペンハーゲンからスウェーデンまで歯の治療に通っている筆者の知人の話では、4回の治療で40万円の治療費がかかったそうである。
病院
△ 写真9 専門医の診療所の様子
△ 表10 デンマークと日本との医師数の比較(2004)
△ 表11 デンマークの病院の主な統計(2004)
家庭医や専門医は、患者が深刻な状態と判断した場合、患者を病院に入院させることが出来る。
この時、患者に入院費用や手術費用の負担はない。 また自立支援のための補助器具や、必要な場合は住宅の改築費なども公費で支給される。
2004年にはデンマークの一般病院は52、精神病院は10となっており、その全てがアムトの管轄となっている。
ただし医療費における財政難から、この10年間で34の一般病院と4の精神病院が統廃合をしているのが現状である。
2004年の病床数は20,638床(一般18,940床、精神1,698床)となっており、稼働率は89%となっている。この他に約100万人の緊急患者と約590万人の外来患者を抱えている。
平均在院日数は、男性で8.6日、女性で7.7日となっており、総合では8.1日。
デンマークでは医療行為と治癒行為は別ものと考えられており、治療は病院で、リハビリやケアは通院やリハビリセンターで行われている。
またガン患者の数も年々増加し、2000年には新たに約32,000人がガン患者として登録され、総合では約209,000人のガン患者が登録されている。
最も多い症状は、女性では乳がん、男性では皮膚がんとなっている。
医薬品
デンマークではすべての医療処置は無料であるが、医薬品に関しては大部分が個人負担となている。
人々は担当医や専門医の診断を受けて処方箋を受け取れば、薬局で強い薬剤も購入することが出来る。また頭痛薬や咳止め薬、軟膏などは処方箋なしで薬局で購入することが出来る。
ただしこれらの医薬品には医療保証サービスは適用されず、すべて自己負担となる。
デンマークでは国民の1/3は定期的になんらかの医薬品を服用し、うち50%は2週間に1度は服用している。割合は男性よりも女性の利用が多く、年齢が高いほど服用が多くなっている。
最も多く利用されているのは血圧を下げるための薬や鎮静剤(痛み止め)で、これらは処方箋なしで購入が出来る。
医薬品の売り上げはここ10年で確実に増加し、1995年では71億DKKだったものが2004年では116億DKKと63%の増加をしている。
デンマークの高齢者福祉
△ 写真12 プライイェムの個室の様子
デンマークでは、高齢者や障がい者が自宅で生活をし続けるため、コムーネの在宅介護サービスを受けることができる。申請により在宅介護の必要性がコムーネによって調査され、どの程度の頻度でホームヘルパーが訪問するかが決められる。
ホームヘルパーの仕事は主に住民に代わって家の掃除をしたり、買い物に行くなどである。
ホームヘルパーは専門的な教育を受けるが、これらは看護士としての教育とは異なる。そのためホームヘルパーは看護師の仕事はできない。もし訪問看護師が必要な場合は、別途コムーネに看護師派遣の申請をする必要がある。
福祉サービスに関してはコムーネの管轄となる。そのためコムーネによって雇用するホームヘルパーの数は異なり、利用できるサービスの質もコムーネによって違ってくるのである。
デンマークでも日本と同様に、多くのお年寄りが住み慣れた自宅での暮らしを望んでいるのであるが、ホームヘルパーの助けがあっても自宅での充分な生活が送れなくなると、人々はプライイェム(老人ホーム)への入居をコムーネに申請することが出来る。
プライイェムでは専門的な教育を受けた職員が24時間待機し、身の回りの世話をしてくれる。入居者は個室を与えられ、自分の家から持ってきた慣れ親しんだ家具を持ち込むことができる。
プライイェムでの滞在費用は年金支給との差し引きで支払われるのが一般的である。これにより入居者は住居、清掃、洗濯、食事、衣服、医薬品などのサービスを受けることが出来る。
また、プライイェムのなかには、入居者が年金を全て受け取り、個人の意志によってそれぞれ必要なものに支払いをしていく種類のものもある。
つまり住む、食べるなど、どれに重点的にお金を支払うかを自分の好きな割合で決めることができるのである。
ただし希望者に対してプライイェムの数が不足していおり順番待ちとなっている地域も多く、現在整備が急がれているところである。
デンマークの障がい者福祉
身体や精神になんらかの障がいを持つ場合、生活支援法に基づき特別補助を受けることができる。
また障がいを持つ子どもには無償で補助器具が提供され、成長に合わせてより適したものを受け取ることができ、特別な訓練が必要な場合にはその援助を受けることができる。
目や耳の障がいや知能障がいの子どものための特別な学校もあるが、補助教師の派遣により普通の児童施設や学校に通うことも可能である。
十分に働くことが困難な成人障がい者は、早期年金を受け取ることができ、適応する補助器具やケアホームを利用することができる。
ケアホームはお年寄りや障がい者を対象とした特別な住居であり、介護仕様された居間、キッチン、バス、トイレなど、入居者がより機能的な生活を得られるように作られている。
これらの設備は入居者それぞれの状況に合わせて用意され、入居者が自分自身で自立した生活を行うことを支援する。また、必要であればホ—ムヘルパーを利用することも可能である。
さらにケアホームの多くはプライイェムの近くに建てられており、緊急時にはケアワーカーによる素早い助けを受けることができるのである。
一方で普通の建物の中にも、段差をなくすなどバリアフリー処置がなされた特別仕様の建物が増えてきている。これは一般のコミュニティにおいて、お年寄りや障がい者が、様々な人々と環境を共有するという目的で作られたものである。
また障がい者はデイセンターで仕事を得ることができ、この仕事を通して、一般の人と同じように社会生活を行うことができる。
事故や病気などにより障がい者になってしまった場合でも、デンマークでは社会復帰を目指した特別な訓練を無償で受けることができる。支援は機能回復訓練や、別の仕事への職業訓練プログラムで構成され、コムーネから派遣されるケースワーカーと共に計画をたてるところからはじめられ、その人に合わせた社会復帰へのプランが作成される。
そして生活の支援だけでなく、デンマークではスポーツ環境への支援も整っており、障がい者の多くがスポーツに参加していて、デンマークでは世界中で行われている障がい者のためのスポーツ大会に毎年大きな代表団を送り出している。
デンマークの生活からみた医療・福祉
最後に、データとしては現れないが、実際の生活視点からみたデンマークの生活や医療制度について、筆者が感じることを簡単に述べさせていただきたい。
デンマークでは社会福祉における国民の満足度が高いと言われているが、実際の住民レベルでは、日本のように多くの選択肢があるわけではなく、選択肢が限られているためにその構図がシンプルである、ということがあるのではないかと感じている。
医療に関して言えば、薬剤などの環境は日本ほどに整ってなく、日本の風邪薬や栄養ドリンク剤の効果を知るデンマーク人にそれらを与えると非常に喜ばれる。基本的に家庭医は日本のように薬を簡単には患者に出さず、また市販の医薬品もそれほど整っていない。
風邪を引いた場合など、在宅医の診察では数分の診察をした後に「コーラを飲んで寝なさい」と診断され帰される。水分や糖分をとってよく休めば治る、ということである。
これが一般的であるデンマークでは、風邪程度で医師の診察を受けることはほとんどなく自然治癒にまかせるのが一般的である。日本のように病院に通い、市販の風邪薬を買い求めて服用するといった習慣はデンマークにはない。
またデンマークでは専門医への診察にはまず家庭医の推薦が必要になるのだが、病状がよほど深刻にならない限りは家庭医は専門医へ推薦することをしない。
さらに国内では専門医の慢性的な不足が問題となっており、他国から医師を招いて対応せざるを得ないといった課題を抱えている。
また人種や技術的な面でも、デンマークに限ったことではなくヨーロッパ諸国でも当てはまることではあるそうだが、ガンを煩った場合、その治療技術の発達からヨーロッパではなく日本に帰国して手術を受けた方がはるかに治癒率が高いと言われている。
デンマークと日本においては文化・暮らし・風土・歴史など、その生活は根本から大きく異なっている。そのため、優れているとされるデンマークの福祉や医療制度をそのまま日本の社会システムの中に持ち込むことは不可能だと感じている。日本とデンマークとではあまりにも国民の人間性や生活の質、大人の成熟度が違うからである。
ただ両国の比較から日本がデンマークに学ぶべきものは多い。デンマークと比較して検討していくと、日本ではまずなによりも、国民の意識を変えるための“気づき”や“きっかけ”を与えることが重要であると感じさせられる。
デンマークだけでなくその他の国との比較研究にも言えることであるが、日本の未来へのより有効な提案を探るためには、比較研究する国における生活・風土・歴史・教育・コミュニティ・言語、そして国民性などへも注目した追求が必要なのではないかと感じており、今後はその点を留意して、日本とデンマークとの比較研究を続けて行きたいと思っている。
参考文献・資料
- ・der er et land / Niels Lund
- ・DANMARKS HISTORIE / POUL BO CHRISTENSEN
- ・STATISK ARBOG 2006 / DANMARKS STAISTIK
- ・The world health report 2006 / WHO
- ・Health Data 2006 / OECD
- ・Indenrigs- og Sundhedsministeriet hjemmesiden
- ・Socialministeriet hjemmesiden