設計について
- △ 住宅の外観と内部の様子
- △ 平面図
- △ 施工現場の様子
本設計は2005 年10 月に、東京に暮らす設計者がデンマークに暮らす友人の施主夫婦から依頼を受けた。計画敷地はデンマークの首都コペンハーゲンより南西へ約60km 離れたRingsted [ リングステッド] コムーネ(市)にある新興住宅地であり、付近一帯では大規模な住宅や施設の建設が行われている。
設計者は東京に在住のため、デンマークに暮らす施主との話し合いにはE メールやFAX、電話を使用し、基本設計を進めていった。その後は図面の提出申請や現場確認のため数回の渡欧をしている。施工会社は現地のHammerhuset 社に依頼し、メールでのやり取りを重ねていった。
今回の設計では施主の希望で当初より畳の空間を設けることになっていた。また設計者自身のデンマークでの生活経験から、日本人である奥さんの異国で暮らすストレスをいかにして軽減させるかに重点を置き、『くつろぎ』をテーマに「バスタブ」「寝転がれる和室」、そして癒しとなる「日本庭園」「明るい窓を持つ部屋」を設ける提案を行った。
プランにおいては環境の違いからリビングは一日の中で最も多く日が差し込む西側に設置。奥さんの要望でキッチンの隣には冷凍庫などを設置したり食料などを保管する収納室を配置した。さらに住宅の配置に関して、敷地の北側が公園となり今後も建物等が建てられることのないことから、住宅を敷地の南東部に縦長に配置し庭の空間をより広く見せるようにしている。
デンマークで住宅を設計する場合、その地域に定められたLokalplan という条例があり、これに沿わなければならない。
ちなみにこのLokalplan は現地語であるデンマーク語で書かれているため設計を行うにはデンマーク語の理解が必要となるが、設計者はデンマーク語の資格を有しているために翻訳者を介すことなく計画を進めることが出来た。
今回の敷地にはLokalplan により多くの規制が設けられており、とりわけ特徴的なのは、壁はレンガ造で色は赤、屋根は切り妻で角度は25 〜50 度、赤の屋根瓦、軒の出は60cm 以内、平屋のみで2 階建ては不可など、他の地域に比べると厳しい条件が課せられていた。ただしこれらは外部に限ったものであり、内部に関しては特に規制は設けられていない。
このような外観が限定されてしまう中で、施主からは周囲の家とは同じにしたくないという要望があり、変化を持たせることが非常に難しかった。だが最終的には南面に設けた和室の丸窓が外部から見た時にこの家の大きな特徴となっており、近隣からもこの家は「丸窓の家」と呼ばれている。
さらに工法においては日本のように地震がないため、レンガを積み上げただけの組積構造となっている。最近のデンマークの住宅では安価で早いパネル工法が一般となっているが、施工したHammerhuset 社はひとつひとつレンガを積み上げていく伝統的な施工方法で行っていった。
和室について
- △ 和室 △ 日本庭園
- △ 組み立て式和室ユニット、1/10 模型
本設計では住宅の中に四畳半の広さの和室を設けている。この和室に関しては実際に現地で和室を持つ建物などを訪問し、検討を重ねた結果、デンマーク国内で制作するよりも日本から輸出をすることが適切であると判断した。
現在デンマークにいくつか存在する和風空間は、デンマーク人所有者が見よう見真似で制作したものがほとんどであり、よく出来てはいるが日本人から見るとどうしても違和感を覚えてしまう部分が多々ある。
その理由としてはやはり素材の入手が困難であることや、デンマークの職人が和室や建具の制作に精通していないといったことなどがあげられる。
デンマークには日本での修行経験を持つデンマーク人の大工もいるが、現場から離れた地域に住んでいるため今回の案件を依頼するにはコストの面で問題があった。
上記のような理由から今回のケースに合わせて設計者が組み立て式の和室ユニットを考案し、日本で制作してデンマークへ輸送し、自ら施工することにした。
和室は少しでも愛着を持たせるため、施主の故郷にある材木店に加工を依頼している。一方で現場の窓の位置や天井の高さなどを和室ユニットに合わせるためにHammarhuset社とはメールにて図面のやり取りなどを密に進めていった。
しかし設計者が実際に現場を訪れた際には、図面とは異なった寸法で施工していることが発覚し、結局は和室ユニットの方の変更を余儀なくされているといったトラブルも起きている。
輸送に関しては、現地における木材や珪藻土の輸入に関する規制を調べ、現地担当局に内容の問い合わせをし、その結果輸入に関しては完全に問題がないとの確証が得られたため、日本の輸送会社による輸送が確定した。
結果として和室に関する全ての材料に関してデンマークへの輸入が可能であることがわかった。
日本からの荷物(総重量は約1.15t)は約1ヵ月半でコペンハーゲン港に到着し、その後港での検査を経て現場へと到着した。
この海上輸送では、湿気などによるカビの発生防止のために通常梱包とは違った真空梱包を利用している。
また内容物の全てに現地でのVAT(付加価値税)25%が発生している。そのため見えない部分の根太や間柱、壁板などの木材は荷物に含めず、現地にて購入した。
新築という条件が可能とさせた今回の試みではあるが、このように日本から輸送してデンマークで制作するという和室ユニットの製作は可能であることが証明された。
また和室の外には和室とほぼ同じ大きさで日本庭園を設けている。造園は庭師を雇わず、デンマークの一般家庭と同様に設計者と施主夫婦とで行った。デンマークでは庭作りは家主が自身で行うのが一般である。
日本庭園に関しては計画当初から枯山水式の庭を提案しており、施主もそれを望んでいた。庭の岩などは近隣の農家からいただいたり、整地時に敷地内から出てきたものを利用している。
また和室と庭園の間にある縁側は、地面からの高さが腰掛けられるよう、あらかじめ和室の床面と揃えて設計・制作している。
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